March 22 – April 2, 1983

杢田たけを

1983年3月22日–4月2日

杢田たけをさんについて

三木多聞

杢田たけをさんが絵画以外の素材も使って絵画ないしは平面造形を制作したのが、独立美術展に出品をしはじめたほぼ半世紀も前のことだったというのは驚きである。幼い時から絵を描いていたこの画家が、ダダやシュルレアリスムのコラージュについて、どの程度の知識をもっていたのかわからないが、「鉄層のある風景」と題する絵画に実際の鉄をコラージュしているのを見ると、造形上の知識からというよりは、内部の欲求から生まれたものであろう。

戦後の杢田さんの作品にコラージュが登場したのは、1950年の末ごろからだったが、油彩に鉄、木、布などをコラージュした作品は、時により微妙な変化を示しながら、一貫して継続されている。一時期には鉄や石の立体造形を発表したこともあるが、杢田さんには平面表現という志向が強いようである。最近は木を素材とすることが多いが、木のとらえ方、かかわりあい方が独得なのである。杢田さんはあるものが見る距離によって全く違って見えた不思議な経験について書いたことがあるが、作品に登場する木は、恐らく素材としてとりあげられる前に、杢田さんによってさまざまに見られているのだと思う。作者は充分なかかわりあいをもった上で、木を素材にしているといってもいい。父君の工場で育った杢田さんは、鉄について「小さい頃から鉄はきごころの知れた仲間だった」と述べているが、木の場合もきごころの知れた仲間として使っているように思う。異質な素材をアキュムレイト(集積)しながら、素材相互がなごみあい、響き合っているのはそのためであろう。そうはいっても、杢田さんは決して素材と馴れ合っているのではない。素材を鋭く見つめ、きごころの知れた仲間から新しい発見を絶えずもとめている。近作で木口を正面につき出したりしていたのもその一例である。杢田さんが素材を駆使してもとめているのは、単なる平面上の空間構成ではなく、根源的な生命力の不思議さであろう。