Dressing Between Desire and Denial

May 26 – July 28, 2007

 

Kusaka Junichi
左:「アイレット・スーツ (タチ・カスタム)」 右:「花のドレス」「葉のコート」 2006、等身大衣装(タチ製スーツ、ハトメ)2007 等身大衣装

日下淳一

欲望と抑圧のドレス 展

2007年5月26日–7月28日

 

日下淳一は「衣食住」をテーマに活動を続けてきた作家です。1995年から「アイディーブティック(ID Boutique)」というアートユニットを結成し、活動して来ました。アイディーブティックとは「アイデンティティを売る(洋品)店」の意。服装が人のアイデンティティに深く関わっていると考え、多様な「衣」作品を発 表してきました。

鎌倉画廊の4回目の個展となる今回は「衣」をテーマに展示を致します。今回、個人名の「日下淳一」を名乗る背景には、アイデンティティの探求を置いても追求したいという、「美しいものをつくること」への関心があると言います。

展覧会のテーマは「欲望と抑圧のドレス」。女性がパーティーで着る「ドレス」のみならず、男女を問わず「正装」という広義で用いられます。欲望をむき出しにするのではなく、自制したり抑圧されたりする間(はざま)に「美」があると作家は考えます。ステンレス板が取り付けられた作品「ステンレス・スーツ」は、事務職が着る定番の服装のようですが、ベストは股間まで覆う異質な形状をしています。アーム&レッグバンドが付いているところをみると人体を保護するための金属板のようですが、股間を意識して誇張しているようでもあり、覆い隠し抑圧しているようでもあります。これは現代人の鎧とも見て取れるでしょう。また、ふとんや衣類を圧縮して収納する袋に入れられた白いジャケットの作品からは、押し縮められて息苦しいというよりも、プレスされた白いジャケットに「美しさ」を感じさせます。

日下淳一は東京芸術大学で油画を専攻し、絵画の基本的な技法を学びました。大学院へ進んでからは油絵を殆ど描かず写真や箱の作品を制作しましたが、絵画に関する作家の経験は時を経て、表現に結びついたようです。今回の個展には「フィードバック」と題された平面(額装していないため平面には見えないが)の小作品が数点出品されます。絵画の支持体が布であることに着目し、服飾生地をキャンバス代わりに木枠に張っています。ジャケットの胸ポケット部分をカラフルな生地で仕立て並列展示したものは、ポケットに物が入れられるようになっており、実用性をもった美術作品として仕立てられています。そして、キャンバスを木枠ごと中心で切断し、ファスナーを取り付けた作品は、V字型に開いて展示されます。日々、作家は服を作り、その制作過程である縫製手法や技術を自分が経験した絵画の媒体に応用し、新たな表現を生み出しています。

「衣」作品の作りや見せ方にも、作家の新しい取り組みが見受けられます。5枚の黄色い花弁とハート型の3枚の葉からデザインした「花のドレス+帽子」と「葉のコート」は、床面に広げて展示することにより「衣服」とは思えない物体として見せています。これは実際に着ることができ、先端のファッションスタイルのようにも見えます。

ジョイント・スーツと名付けられた5点組のスーツは、左右に切り離し他の色と組み合わせられるように作られています。赤・青・黄・白・黒の鮮やかな色彩のスーツは、100通り以上の組み合わせがあります。

これらのほか、ごみ収集所などで見かける青い網で作られた「ネット・スーツ」やハトメが黒いスーツ全体に取り付けられた「アイレット・スーツ」が出展されます。

こうした日下の仕事は衣服の可能性を探求しているようですが、それはすなわち人の可能性でもあると言えます。日下はこう言い続けてきました。「服を着替えるとにより、人は変わっていくことができる。」それは外観のことだけではなく精神面にも多大な影響を及ぼすことを示唆しています。欲望と抑圧の間から発生した美しい「衣」は、作家の美に対する意識や視点が明快に表現されているようです。シンプルな形態と鮮やかな色彩は大胆に見えますが、そこに裏付けられた作家の繊細な仕事が伝わってきます。

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