橿尾さんが、昨年の夏、ヴェネツィアで参加したArtelagna 1995 はどんな展覧会でしたか?

一口でいうと water art、水の上に作品を並べてヴァポレット(水上バス)から眺めるというものです。ヴェネツィアというとすぐ運河を思い出しますが、運河ではなくラグーナ(ヴェネトの潟)が会場です。潟といってもヴェネツィア島やガラス作りのムラーノ島、ししゅうのブラーノ島、その他多くの島々をかかえているので一見、海といった感じです。

地元イタリーから4人、フランスとアメリカから2人ずつ、ほかドイツ、オーストリー、デンマーク、日本、ベルギー、ギリシャから一人ずつ参加しています。9か国から14人の招待作家が参加しました。

期間は6月11日から7月31日まででしたが、実際は9月1日まで延期されたようです。

ラグーナでも船の通る所は深く、ほかは人間の背丈ほどとか浅い所では腰ぐらいの所もあって、作品を底に設置することも可能だったのでしょう。浮かべるか、とりつけるかどちらかでしょうね。フランスのグリフィンという作家は、船の上から大きい布製の作品を凧のようにあげていましたが、これは会期中いっぱいというより、ごく限られた日にだけ、空高く揚げられたのだと思います。

ところで、橿尾さんの作品はどんな作品でしたか?

2m大の木製の円板に銅のパイプを半円形にとりつけ、45度の角度にもう一本、半円形のパイプが入り、そこへ綿布をはったものを一つの単位形にして、10個が連なるものです。全長が25mになりました。

板の底に5cm巾の鉄板が5本とりつけてあり、とてもがんじょうにできていました。私が作ったらあんな具合にはいかないでしょうね。ラグーナの潮流など現地の気象条件を知っているから作られたのだと思います。

張った布地は sailing fabricsというんですから航海用の織物ですね。色は白、紺碧の海に白い布、映えると思ってのプランです。タイトルはWaving Line。カタログを作るのに作品の意図をたずねられ、次の文を事務局へ送りました。

The place where my work is floating is on the water. There it is always moving quietly and sometimes severely. Its moving looks like the heart-beat that all the living things have. ‘The waving line’ shows the water-beat meetly. Hopefully my work is not standing against the nature but adapting itself to her. I wish my work has been living as if it existed there originally from the very first.

作品は8日の報道関係者への公開には間にあわず、11日の一般公開の朝にようやく取りつけられたようで、当日私がホテルを出たあとに「作品が完成しました。テレビの取材もあります」とメモが置いてありました。12日に早速私はカメラと8mmビデオ撮影機をもって出かけました。サン・マルコ寺院近くのスキァヴォーニ埠頭からLine 20のヴァポレットにのりこむと、次から次へと作品の間を走りました。私の作品はサン・セルヴォロ島を離れた所にありました。船が近づいてくると作品が身近に見え、次第に遠ざかるまで眺め、乗っている見知らぬ婦人に私の作品ですと伝えました。

ほかの作家はどうでしたか?

素材にガラスを使ったのがイタリアの Seguro とギリシャの Varotsos という作家です。前者は2.5mの高さの棒状の吹きガラスを18mの間に43本立てています。ガラスというと透明にできていて水面では効果がないように思われるでしょうが、遠くから見ても不思議なことに分かるのですね、波がかなり強く、ガラスというともろくてこわれ易く、大変な苦労の末にできたようです。ヴェネツィアの街に彼の作品がポスターに採用されて、かなり人目をひきましたよ。

今一人のギリシャの作家は長さ30mの逆三角形のステンレスの上に8ミリのガラスをぎっしり積み重ねたもので、水上に置いたすぐあとに壊れたらしく、修理のため工場へ運びこまれていました。

アメリカの女性作家スーザン・クラインバーグはケープカナベラムにあるNASAで作ったという浮き袋の上にヴェネツィアのよき時代のつぼ、宗教上の遺物、宝石、鏡、陶器、マスク、皿をのせている。といってもプラスチックでできているのですが…。かつての栄光あるヴェネツィア共和国と海とのmarriageだそうです。アーティストが広大な水の上に広がる空間を前にして、どんなふうに自分の作品を展開するかとても興味深く見ました。

1996年9月 橿尾正次

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