イチハラヒロコ さん インタビュー

2018年1月 都内某所

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鎌倉画廊
今年は活動30周年にあたり作品集の第三弾も出版されますね。そのあたりもいろいろとお話をお伺いしたいと思います。ところで、インタビューは久しぶりだとお聞きしましたが、、、
イチハラヒロコ
はい、ここ数年は雑誌などのインタビューを実施してこなかったんです。言葉の作品だから説明的になってしまったり蛇足になってしまったりとか。説明するとつまらなくなってしまう気がして。意地悪な言い方をすると、4つしか聞かれることが なくて。この作品を作ったきっかけはなんですか?苦労する点は?どこを見て欲しいですか?将来どうなりたいですか?その4つしか(笑)。
鎌倉画廊
初めてイチハラさんを知る人に対しても記事を作るから仕方ないですよね。では今日はその4つは聞かないようにします(笑)。雑誌の取材はよくあるんですか?
イチハラヒロコ
恋みくじ(大阪の布忍神社と共同で制作した36番までの言葉の作品から成るおみくじ。鎌倉画廊も含め国内数か所で引くことができる)に関してはその経緯を言えるし、私の主導でというよりかは神社とのコラボなので、是非神社に取材に行ってくださいでいいんですけど、個展会場ではこの作品で何を伝えたいかと聞かれるので、それは(作品を)読んでもらえれば、、、と思うんですよね(笑)。
鎌倉画廊
新しい本(作品集第三弾。三修社刊)が出ますね(※現在は刊行済)。今回は何キロ痩せたら今井美樹ですか?(作品集 一、二作目の背表紙に『〇キロやせたら、今井美樹』というTシャツを着た本人の写真が掲載されている)
イチハラヒロコ
34キロ。(笑)
鎌倉画廊
それ載せるんですか??
イチハラヒロコ
もうすでに。(笑)
鎌倉画廊
はじめ(1999年、初の作品集刊行時)は17キロじゃなかったですか?
イチハラヒロコ
最初が17キロで、次は26キロ痩せたら今井美樹。35キロが(ブルゾンちえみみたいで)悔しいから34キロに。(爆笑)
鎌倉画廊
この後(インタビュー当日)は吉川晃司のコンサートに行くんですよね?
イチハラヒロコ
なんでご存知なんですか!(笑)
鎌倉画廊
ところで、(イチハラさんが著書の中でベスト1だと書いていた映画「ラン・ローラ・ラン」-1998年ドイツ製作*日本公開1999年-について)こちらで周りの人にも聞いたんですけど、「ラン・ローラ・ラン」は記憶に残っていると言うんですよ。イチハラさんは今でも「ラン・ローラ・ラン」が1番の映画ですか??
イチハラヒロコ
そうですね。
鎌倉画廊
映画の中で一番号泣するのはカジノのシーンですか?
イチハラヒロコ
そうです。カジノで最後、窓ガラスが割れるほど叫ぶところですね。
鎌倉画廊
あれを繰り返し繰り返し見るんですか?
イチハラヒロコ
繰り返し見ますね。あの映画に出てくる人たちって全員がどうしようもないんですよ。大人なのに嘘つきだったりとか、ごまかしながら怠惰に生きていて、そんな前提なの?っていう。正義感あふれるヒーローとか一人も出てこない。でも主人公は赤毛で可愛いし、アニメを多用してたりタイムリープするのも、あの時代だったら珍しい感じがありますね。ロケ地がドイツのベルリンだったし、自分もドイツを身近に感じてたし(1999年ドルトムントで作品発表)。ドイツで大ヒットしたんですよ。(映画の影響で)ベルリンの女の子がみんな髪を真っ赤に染めたっていうくらいの、、、 。やっぱりその気合いやねんなぁと思って、愛と気合いやねんと思って。全部無茶苦茶だけど恋人のためにお金がいるんやって言う、その、爆発ですよね。
鎌倉画廊
イチハラさんは昔、恋人に貢いだりとか、思い出にフラッシュバックしたりしたのですか?
イチハラヒロコ
(爆笑)貢ぐとか!(爆笑)ないですよ。(爆笑)
鎌倉画廊
30周年ということで、あの頃の恋愛とは違うとか、もう恋愛の話をするのは微妙だなとか、当然心境の変化があるわけですよね?
イチハラヒロコ
作品はフィクションやからね。(笑)
鎌倉画廊
言葉の作品を作り始めた当初は自然にできたけど今は苦労しないとできないなぁとか、ありますか?
イチハラヒロコ
テーマは「愛と笑い」って決めたので、すごく乱暴な言い方なのか優しい言い方なのかわからないけど、わたしが何かしらの言葉を書いたら作品になるんですよね。偉そうでしょう~?(笑)それは文字に起こすとすごく偉そうに感じるんですよ。ペースでいうと、できるときは沢山できるけど、できない時は全くできない。それは今も昔も一緒で「波」がありますよ。

デビューの時は今から(メジャーシーンへ)行かなあかんと。行かなあかんというのは表舞台に発表したり、メジャーなところにどんどん行きたいっていう時はツテとかコネとかこれもあれも全部使わなきゃって、チャンスを全部捕まえなきゃって思ってて。インプットするために例えば本読んだらいいのかしらとか、映画の名セリフを吸収しなくちゃいけないのかしらっていう作業的なことって必要なのかなという思いはありました。手探りで試行錯誤している期間でしょうか。結局そんな作業はしていないんですけれど。

そもそもの原点がどこにあったかと言うと、「小さな恋のものがたり」という漫画なんですよ。1962年からある漫画で、作者の方は現在77歳です。連載期間52年(!)という。最後のほうはちょこちょことしか出せなくて。高校2年生のクラスメイトの物語なんですけど。背が小さくて特別美人じゃない子(チッチ)が、背が高くてハンサムな秀才(サリー)に恋をしてというほんとに小さな小さな恋のものがたりなんですけど。漫画は4コマでクラスメイト同士のお友だちの話やとか今度数学だとかテストがとか、親との喧嘩があったりとか。ずっと学年が変わらないパターンの。

特筆すべきは4コマ漫画のあいだあいだに、見開きとかにポエムが差し込まれてるんですよ。見開きには例えば紫陽花の中にチッチがちょこんと座ってたり、雨がしとしと降っていて奥のほうに背の高い主人公の男の子と誰か知らないちょっと美人の同級生が相合傘で帰ってる。そういう心情が描かれているページがあって。チッチが、さくらんぼがブランコになっていてサリーと一緒に乗ってるみたいな、ファンタジーな絵柄とともに、チッチの心情が詩になっていて。わたしが小学校5年くらいの時に見てすごく惹かれる所があった。漫画だけだったらそんなに印象に残らへんかったかもしれないんですけど、そのポエムが、客観的に自分たちや身の周りのことを言っていて、例えば季節ごとのお花、すみれとかシロツメクサがどうたらっていうようなポエムになっていてすごく良かったんですよ。10歳の幼心に届いたんですよ。真似してポエムを書くようになったんです。「小さな恋のものがたり」がわたしの原点です。
鎌倉画廊
その時からこのクロッキー?
イチハラヒロコ
いえ、クロッキー帳は大学生になってからです。小学校高学年のときに「ちい恋」に影響を受けて詩をいくつか書いていて、中学になったらそれに曲をのせたりして、オリジナルの曲をつくってギターで弾き語りをしていました(笑)。
鎌倉画廊
美大時代に(様々な表現を試しながら課題に苦戦し続けて)先生に追い詰められて(苦し紛れの中で作ったのが初めての言葉の作品「LOVEおまえのせいだ。」だった)という話(著書より)は印象的なんですが、結果的にああいう文字の作品になったわけですが、それはご実家が印刷所である環境で育ったことと関係あるのか、どこから来たのか、まったく関係ないのか。やはり関係あるんですよね?
イチハラヒロコ
今となってはそれがルーツなんだろうなって思うんですけど、家の壁が全部活字。それを組む人がいてて、それを印刷する人がいて、家の半分が印刷工場だったんです。輪転機の廻るザシッザシッっていう大きな音で毎朝目覚める。今から思うと、っていうのがあるんですけど、それよりかは大きなくくりで言うとしたら、家が商売をやっていたので、お勤めに行く、サラリーマンとかOL?になるっていう選択肢よりも商売、何かお店をやりたいなっていう方の思考は持ってました。 印刷所がどうとか文字がどうとかよりは。
鎌倉画廊
子供の頃は工場を手伝ったりしたんですか。
イチハラヒロコ
断裁機とかあって危ないから入るなって言われました。インクの匂いもクラクラするので入るなって言われました。
鎌倉画廊
作品の中での句読点や改行位置はやはりいろいろ考えるのでしょうか?
イチハラヒロコ
『。』がいつもあるのは文章の中に『、』があるからです。『、』があるから 『。』で終わるという。だから「モーニング娘。」が出てきた時はどうしようかと思いました。見てたの?私のことをって(笑)。改行は、作品全体の構図にもなりますから、画家が皿を手前において、リンゴは後ろで、とか構図を考えるように改行も考えます。漢字にするのか、カタカナに?ひらがなのまま?とかも、ですね。
鎌倉画廊
30年もやると今となっては使えない言葉とか、追加したい言葉があったりすると思うんですが、意識して使ったりとか使わないとか、出来るだけ普遍的な言葉を使うとかの考えがあるんでしょうか?
イチハラヒロコ
言葉はすごく変わっていくので、「拙者」とか「おぬし」とか今は誰も言わないし、例えば前は「アベック」と言っていたのが「カップル」とか。「チョベリバ」とかも、もう誰も言わない。言葉はすぐ古くなるので、できるだけ普遍的なというのは意識しています。発表した瞬間に古くなるから、時事ネタはやめようと決めました。どんな大きな事件事故、ムーブメントがあっても時事ネタはしないですね。

恋みくじを作ってもう19年目なんですけど、最近GoogleのCMに起用されたことでさらに注目が集まりました。大阪の松原市にある布忍神社にはたくさんの人が来てくださっています。お正月に大阪の報道の記者の人が、布忍神社で恋みくじを引く様子を追っかけてくれて、「19年も前から」って19年をものすごく強調するんですよ(苦笑)。流行りモノって本当にすぐ廃れていくのに、どうして19年も(耐久性があるんだ)っていう。

恋みくじにした作品の2つを変更したんです。「恋をしそんじる。」っていうのがあるのですが、若い人が“しそんじる”って何ですか?しそ? えっ?って。“恋をしそんじる。”って分からへんのや~と思って(苦笑)。あともう一つ、「好かれたいと思っていたが、そうは、問屋がおろさない。」っていう作品があるんですけど、“問屋”って何ですか?って、そもそも“とんや(といや)”と 読めないんですよ。

え~マジかと。“そうは、問屋がおろさへん”とか誰も言わないと(苦笑)。ですからその2つは変更しました、3年くらい前に。出来るだけ普遍的な流行り廃りのない言葉を使おうって思っていてもこういうことがおこりますから。しょうがないですよね。

美大や芸大に講演をしに行く時も、作品集を持って行くのですが、1冊目は 18、19歳の彼らの生まれる前の発売だから、「こんな前に発売されてるの!?」って言われてしまう。個人の趣味が多種多様になってきたら、色んな考えや思考があるけど、でも「初めてチューする時って鼻をどうするんだろう...」って考えるでしょう?(笑)「鼻のほうが先にあたるよね…」とかが、ちょっとチラつく 。何か、鼻の奥がツーンとしたような、 胸がギューっとするようなことって、昔も今もそう変わらへんのんちゃうん?と思うし。

かといって全員が全員に届くような、最大公約数が欲しいわけではなくて。例えば視聴率40%が欲しいんじゃなくて、全く。水曜日とか木曜日とかのド平日の25時40分からの5分番組なんだけど、視聴率なんて0.02%しかないんだけどその 0.02%の人が100%熱狂してたらいいなと思うんですよ。万人に届けとは思わないし、思いづらいし。そもそも届くか?って思うし。遠いぞ、他人までって!(笑)
鎌倉画廊
3冊目の本(作品集)がもうすぐ出る(※現在は刊行済)わけですが、いかがですか?もちろん過去2冊よりずっとずっといいと思いますけど。出来上がって発売を待つばかりの今の心境はどんな感じなんですか。
イチハラヒロコ
あの、直しをまだやってます。
鎌倉画廊
来月(2月)発売ですよね?
イチハラヒロコ
粘りたくて。
鎌倉画廊
(イチハラさんが以前、著書の中で立てた仮説の)「ファースト・アルバム最強論」、イチハラさん的には25歳の自分は超えてるのかなって、どうでしょう?
イチハラヒロコ
過去の自分とはいつも勝負やなって思っていて、若いってそれだけでフレッシュで、物珍しいのもあるし新鮮なのでお刺身でも食えるし。初期衝動っていうのって強烈やと思うんですよ。例えば初恋だとか、ファーストキスだとか、っていうね。小説家の方も処女作を超えられないとか、ね。1冊目がね、最強やと。で2冊目、吉川晃司さんとの対談を掲載しているのに、1冊目ほど売れないんです(苦笑)。でまあタイトル(『雨の夜にカサもささずにトレンチコートのえりを立ててバラの花を抱えて青春の影を歌いながら「悪かった。やっぱり俺...。」って言ってむかえに来てほしい。』)が長すぎて注文やりづらいのがあって。やっぱり2冊目のときも25歳の時の作品が掲載されている1冊目と競えているのかと思ったし、2冊目を出したのが8年後、そしてさらに10年ぶりに3冊目が出るから、私はまたこの2冊と戦わなくてはいけない。もしかしたら負けるかもしれないですよね。

同じ作品を見ても、すっごく惹かれるよね~って時もあれば、前は良いなと思っていたけど今はそうでもないな~っていうのもあると思うんです。作品はずっと変わらないけど、人は変わるので。タイトルも「王子さまが来てくれたのに、留守にしていてすみません。」って王子さま三部作なんです。1冊目、早く来やがれって言って 、2冊目、ずぶ濡れで来てるわみたいな、で、3冊目、会えへんかったんかーい!とか、そういうのですかね(爆笑)。

でも初期衝動には、もしかしたら負けるかも。だって始まりの1本だもん、やっぱり「LOVEおまえのせいだ。」っていうのは。あれから始まったんだもん。30年経ってどれだけの作品数を作ったか分かりませんが、あれといつも勝負してるもん。「LOVEおまえのせいだ。」は最強。次作る作品が最高ってことでどうでしょうか。

「LOVEおまえのせいだ。」が誕生したっていうか発明したっていうか、初めて世に出たっていうね、出来たっていうのはやっぱり、すごく強烈でデカイですね。
鎌倉画廊
作り方は変わったんですか?前は歩いているとパラパラ浮かんだけど、今は う~んと考えて出すとか。
イチハラヒロコ
同じです。クロッキー帳をいつも持ち歩いていて、いま162冊目なんですけど。何でもかんでも書き込みます。
鎌倉画廊
今日は作るぞ、みたいな日はあるんですか?
イチハラヒロコ
今日は作るぞっていうのはありますね。
鎌倉画廊
もちろんクロッキー帳は枕元にも置いてあるんですよね?
イチハラヒロコ
枕元には置いてないです。(笑)
鎌倉画廊
夢に出てきたとか、起きた瞬間とかはないんですか?
イチハラヒロコ
あるかも!あるかもしれないです。でも起きたら忘れてて、あ~もう~なんでメモしなかったんだーってのはありますね。クロッキー帳にはなんでも書きます。スケジュールも書いてますし、M-1(グランプリ)で誰が (誰に点数を)入れたかも書きます。
鎌倉画廊
162冊だと月1冊とかですか?
イチハラヒロコ
コンスタントに使うときで年に4、5冊です。不調やなーっていう時は年に2冊ぐらい。100枚がもう埋まらないんですよ。今回の本のタイトルは一番の新作なんですよ。
鎌倉画廊
じゃあタイトルは(推敲のあるクロッキー帳を見ながら)最初はこの形だったんですね?
イチハラヒロコ
表紙の作品は他にも候補があって、どれにしようか結構長いあいだ悩んでて。けどなんか違う、違和感というか、外れかも...みたいなんがあったので厳しいなって思って。もうちょっと何かないか、もう一つ二つ、出てこないかと考えあぐねて最後の最後でこれ(「王子さまが来てくれたのに、留守にしていてすみません。」)が来て、すごいなぁって。だからそういう限界を超えてもう無いわ、っていう最後にポロンて出てくるんですよ。不思議です。本編入稿した、最後の最後でしたもん。こんなことあります~!?(笑)

Top » イチハラヒロコ「王子さまが来てくれたのに、留守にしていてすみません。」2018年4月14日–6月16日