作家紹介

伊藤雅恵は4人中最年少。一昨年、彼女が都内の画廊で開いた個展を見、華やかな色彩、弾ける筆触、
躍動する構図に衝撃を受けた。16年ほど画廊巡りをしていて、これほど印象的な出合いはない。
今年3月の「VOCA展2008」に推薦したら、「佳作賞」を得た。一番今後が楽しみな画家だ。

上田奈保。1997年のVOCA展に高知県から推薦され出品、「VOCA奨励賞」を獲得。その作品の主題について、
同展の本江邦夫選考委員(府中市美術館長。以下VOCA展選考委員の肩書は現在のもの)は「まるで判じ絵の
ように謎をかけ引き寄せる」と評した。人物ないし人体の断片がしばしば描かれるが、豊饒な色彩と自由自在ながら
欠点のない筆触が織り成す上田の画面は常に、官能の香り漂う謎に満ちている。県外での発表はわずか。彼女は
「高知の秘宝」であるばかりか、わが国の現代美術の至宝だとまで言いたくなる。

傍嶋崇の魅力を知ったのは05年の「トーキョーワンダーウォール都庁」展。省略の利いた大胆な構図、鮮やかで
分厚い色面……。そんな彼の作品は、昨年のVOCAで奨励賞を受けた。建畠晢選考委員(国立国際美術館長)は、
傍嶋作品に「オルフィスム」との共通点を指摘している。オルフィスムは豊かな色彩を用い、音楽神オルフェの調べの
ように豊麗かつ純粋な抽象表現を目指したキュビスムの一派。その特徴を、ほぼ一世紀を経て日本で再現したらしい
傍嶋の美術は、時代と文化を超えた「絵画」の普遍的本質に近いのではないか。

最年長の馬場健太郎も、2000年のVOCAに出品。賞は逃したが、高階秀爾選考委員長(大原美術館長)は
図録の文中で、「新しい絵画マティエールの探求に挑んだ」と馬場を評価した。そのとおり、彼の絵画は、画材の
物質性、奥深い色彩、そして主題の帯びる観念性が緊張感を伴い調和する、造形美の小宇宙である。

20代の伊藤と傍嶋、30代の上田と馬場。まだ若い4人それぞれの色彩と形態、筆触の競演は、そのまま
生命感あふれる「絵画の春」の饗宴となるだろう。


---名古屋 覚 NAGOYA Satoru
美術ジャーナリスト。
1967年東京生まれ、東京在住。
ジャパンタイムズ学芸記者を経てフリーランス。
国内外の雑誌、新聞等に現代美術について寄稿。
95年からフラッシュアートインターナショナル誌日本通信員。
同年からVOCA展作家推薦委員。
2004年からトーキョーワンダーウォール審査員。

     
伊藤雅恵 「おぼえてません」 
2008 53x65cm
油彩、キャンバス 
       
作家略歴

伊 藤 雅 恵 ITO Masae
1982年 愛知県生まれ
2005年 武蔵野美術大学造形学部油絵学科卒業
2006年 個展「ラインのむこうのギャラクシー」, 藍画廊 , 東京
2007年 個展「ドラマティックス」, Bunkamura GALLERY+とArts&Crafts 東京
2007年 個展「モンスター・イン・ミー」 藍画廊 東京
     トーキョーワンダーウォール公募2007 , トーキョーワンダーウォール賞
2008年 「VOCA展2008 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」 上野の森美術館
     東京 佳作賞 
HP.
http://masaeitoh.com

上 田 奈 保 UETA Naho
1972年 高知県生まれ
1997年 「VOCA展1997 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」 上野の森美術館  東京 奨励賞 
2000年 「上田奈保展」第一生命南ギャラリー 東京
2005年 「第1回倉敷ビエンナーレ」倉敷アイビースクエア 倉敷
2006年 第一回高知市美術作品コンクールConcours des tableaux  高知 最優秀賞 
2007年 「THE EDGE 4展 絵画の現場から」 関連企画 ネッツトヨタ南国 高知

傍 嶋 崇 SOBAJIMA Takashi
1981年 千葉県生まれ
2005年 トーキョーワンダーウォール公募 2005,トーキョーワンダーウォール賞、東京
2007年 東京造形大学造形学部絵画科卒業
      「VOCA展2007 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」 上野の森美術館      東京 奨励賞
      「from/to#4」グループ展 WAKO WORKS OF ART 東京

馬 場 健 太 郎 BABA Kentaro
1968年 長崎県生まれ
      創形美術学校研究科造形課程修了(修了制作 高澤賞受賞)
1994 96年 個展ルナミ画廊 東京
1999年 「現代日本絵画の展望展」東京ステーションギャラリー
2000年 「VOCA展2000 現代美術の展望ー新しい平面の作家たち」 上野の森美術館 
     東京
     第5回昭和シェル石油現代美術賞 審査員特別賞受賞      
2004年 個展トキアートスペース 東京
2006年 文化庁在外派遣研修員としてミラノに滞在
2007年 個展 ギャラリーMOMO 東京  
HP.
http://www4.plala.or.jp/kentarobaba68/
 

傍嶋崇「おおふね」40x32cm 2008年
油彩、木製パネル

上田奈保 「パインの実」130x130cm
2008年 アクリル、油彩、キャンバス


     
back     馬場健太郎 <Hopeful Ship> 162x276cm 2008年
油彩、蜜蝋、キャンバス